私のタイムショック論
(「マホメット水野」改め「クイズ界のご意見番」こと)
水野文也

 私にとって、タイムショックは苦手な番組である。今回を含めてクイズ番組に合計9勝しているが、「1問当たり5秒で1分間に12問を答える」というあのスタイルは私に向かない。
 もちろん、対戦相手が、クイズマニアの間でいうところの"素人"、つまり、一般のクイズ好きの視聴者であれば、よほど問題の巡り合わせが悪くない限り、負けることはないだろう。それなりの力は備えているし、パーフェクトの12問も不可能ではないと思っている。しかしながら、私は安定的に成績を収めることに対して自信を欠く。しかも、過去の実績を踏まえれば、クイズ番組におけるマッチメークで、私は強豪との対戦を覚悟しなければならない立場だ。クイズマニアが、おそらく、そう思うであろう「出る以上は勝つ」との前提に立てば、不向きと感じる番組を避けたくなる心情が、これを読む多くの方には、わかっていただけるかと思う。

 実際、当ホノルルクラブのメンバーで、全国でもトップレベルの実力者である某君も私と同じニュアンスのことを言っていた。タイムショックは、単に知識の有無だけではなく、"向き不向き"が大きな要素であると考えられる。水準以上の実力を有し、勝ちたいという気持ちが強いプレーヤーほど、不向きと思えば、同じことを考えるのではないか。
 ただ、そうは言っても、クイズ好きの性か、悲しいかなチャンスがあれば "やりたい"と思ってしまう。言い出しっぺの嶋田君に「皆で出ませんか」と誘われた時、ホイホイと誘いに乗ってしまった。幸い今回は、団体戦で"椅子"に座るのは最大で3人(予選申し込み現在のルールでは4人だった)。本戦出場が決まる前から私は、「出場することになった場合、(予選を受けた時のルールにあった)ジャンル別の対戦コーナー以外は、俺は絶対に座らない」とメンバーに早々申し入れた。社会科学系と歴史の問題に関しては、メンバー中で随一であると自負するため、また、得意ジャンルに限れば、知識の絶対量だけではなく、心理的にも当然、優位に立てるためである。

 むろん、チームのメンバーが異なれば、そうしたことは言えなかったろう。かりに、個人戦の番組でも、自分の"クイズ心(ごころ)"に火がついて予選にエントリーしたかもしれない。不向きであっても、勝つチャンスはゼロではないし、団体戦でなければ、個人の責任においてベストを尽くせばいいだけだからである。
 実際、20年近く前に一度、あの椅子に座ったことがあった。蛇足ながら、その時の結果を記せば、7問か8問(当時のビデオが残っていないうえ、敗戦のショックのためか記憶が定かではない。この敗戦で"向かない"との意を強くし、再度の挑戦をしなかった)で、同点決勝に破れてチャレンジャーにもなれずエース賞。手痛い敗戦となったのである。

 さて、これまで番組に臨む前の自分の気持ちを中心について記したが、以下に、どんな人がタイムショックの"椅子"に不向きなのか、自分なりの考えを簡単に述べてみよう。"ご意見番"と自称する者の戯言として、読み流して欲しい。

(1)絶対的な知識量が少ない人
 これは、どの番組で言えること。もっとも、ある一定水準に達していなければ、予選を通過することはない。加えて、個人的な考えでは、いわゆる"クイズ問題"以外の社会常識(例を挙げれば、自動車の運転における交通法規など)が欠いている人も本質的には向かない。プレーヤーの中には、勉強を積んでいるためか、一般のクイズ問題には強いが、おやっと思う常識を問う問題(クイズ問題になりにくいのかもしれない)を落とす向きも見受けられる。

(2)特定ジャンルに得意分野が偏っている、或いは極端に苦手分野がある人
 早押しでの対戦なら、これは大きな項目ではない。得意分野の解答の積み重ねだけでも勝てるし、現実に、強豪を呼ばれる人でも、これを戦法とする人もいると考えられる。しかし、個人に対し、ジャンルを問わずに12問が出題される形式では、とりわけ、極端に苦手分野がある場合、致命傷になりかねない。逆に、ジャンル別対戦のルールでは、絶対的に自信のある分野がある場合、そのジャンルに果敢に挑戦すべきである。

(3)慌てる人、失敗したことに対して尾を引く人
 瞬時の計算問題や、逆さ読みなどの頻度が高いタイムショックでは、"慌て"は最大の敵。ある意味では、知識以上に、大切な項目と言える。ただし、これは、それなりの訓練をすれば、克服できるものと思う。逆に言えば、向き不向きにかかわらず、出場が決まったら(もちろん、決まる以前、普段からでもいいが)、訓練を積む必要がありそうだ。
 また、失敗したことに尾を引く人は、1問チョンボして、次の問題を落とすといった例を多く見かける。これは、その人の性格だから、簡単には変えようがない。自分がそうしたキャラでであり、それでも椅子に座る場合、ハンデを背負ったと思って、落ち着いて臨むよう努力するしかないだろう。

(4)物事を難しく考える人
 番組を見ていると、時に、ひどくやさしい問題が出る場合があるが、強いと思われる人でも落とすケースがある。実力者にありがちだが、「こんな、やさしいの出るはずがない」と瞬時に考える人は、本質的に向かない。これは致命的な項目ではなく、団体戦においてチームに実力者が揃い、かつ、接戦が予想される場合、メンバー選びの判断材料になると考えた。

(5)キャリアに乏しい人
 本職でも無い人が、テレビ出演で緊張しない方がおかしい。(私は、仕事でテレビとラジオの解説者をレギュラーで務めたこともあるので、テレビ番組であがることはない。しかし、ビジネスで慣れても、クイズの対戦は別物と感じている)実力が100%発揮できることは希少だろう。それをカバーするには、キャリアを積むことだ。これまでの経験からも、"慣れ"は大切なファクターと思っている。メンバーの実力がきっ抗し、椅子に座るプレーヤーを誰にするか迷った場合、最後の決め手はキャリア優先にした方がいい。今回、我々が早押しで苦戦しながらも、優勝できた要因として、各メンバーのキャリアが豊富だったことも挙げられると思う。

 以上、5点を挙げたが、これらに関しては明確な基準はなく、異論もあるだろう。あくまでも個人的な見解、しかも、団体戦において作戦を立てるうえでの相対的な基準として論じた。
 この(1)〜(5)について、私自身を客観的に分析すれば、(2)と(3)で引っ掛かると考えている。(2)に関しては、以前から私は芸能分野が大の苦手。早押しの対戦では、問題の傾向から芸能が多めと感じたので、同点決勝早押しでは、相手が間違え、こちらに解答権が移った時、"一抜け"で答えさせて貰った。逆に、旧ルールのジャンル別対戦で、社会科学系(本放送で歴史、地理、政治経済というのがあった)が用意されたら、私は進んで座っていたし、実際、新ルールが明らかになる前は、そうした作戦で臨むつもりだった。さらに言えば、今回の5人のメンバーなら、どんなジャンルが来てもたいていは誰かがカバーできる、という層の厚さが自慢のチームでもあった。

 (3)は、恥ずかしい話だが、20年ほど前に出場した時も、1問目の誤答が尾を引き、自滅した経験がある。今回の予選(面接官を前に12問答えさせる)でも、何でもない問題を間違え、後の2問を沈黙、知識だけなら10問か11問は行けたところを8問という、ふがいない結果を出してしまった。私と対戦したことのあるプレーヤーなら、おわかりかと思うが、私の戦いは勢いと気合い、それに粘り。リズムが狂ったり、乗らない時は、"お客さん"と化してしまう。こうした自分を、よく理解しているので、基本的に"椅子"には座りたくないと思っているのである。
 ただし、誤解ないように記しておくが、逃げ回るつもりはない。この先、その時があるとすれば、20年ぶり(正確には19年ぶり)に座ってみよう、という気持ちがあるのも事実だ。

 最後に、今後の出場を目指す方たちに、自らの考え、経験からのアドバイスを記したい。
 団体戦であるがゆえに、各メンバーが自分自身の実力、向き不向きを客観的に判断、さらには情報を得たならば(今回に限らず、私は情報戦も大切と考え、過去においても他の出場者の情報を極力集めるようにした)相手も分析したうえで、その時点で最上と思われる作戦を立てるべきである。自分を押し殺すメンバーが出るチームもあるだろう。しかし、勝利を目指すのであれば、タイムショックに限らず、戦う前にベストを尽くせる環境づくりをした方がいい。
 そうした点を踏まえ、現ルールでのタイムショックは、基本的に実力だけではなく、向き不向きも考慮して椅子に座るメンバーを決めるべきと私は考える。また、キャラクターを重視するチームなら、それを生かす作戦を立て、"椅子"を決めた方がいいだろう。さらに、甲乙付け難いメンバー構成ならば、正月の箱根駅伝ではないが、当日のコンディションを考慮して、調子の良い者を送り出したい。

 今回、座った石野キャプテンと鷹羽君は、現時点では自分より総合力(実力・キャリアで優れる石野キャプテン、最も穴が少なく安定度メンバー1の鷹羽君)で優っているため、安心して2人に完全に任せることが出来た。そして、期待通り力を出し健闘してくれたのは周知の通り。この場を借りて2人に感謝したい。