<喪中>


頑なな喪中が
かたちだけで
すぎる
まっすぐな責任と
水性の命とが
どこかでつりあっている蝋燭
水のような
なめらかな吸気で
垂直にのび
結氷の孤独な
思い込みのまま
いっきにマンションから飛び降りた男
背任横領詐欺不倫
供えられた会葬者の納得の炎
責任と命とが相殺された
男の納品書だ
上司へとどけと
燃える遺言だ
義務にうながされて
朝はやく
夜おそく
地下道をつまさきだちの
不安で
上り下った

いちにち
めぐっている
月よ
見かぎられた
男の行き着く先と
知らぬ仏の顔などするな
押しつければ
凶器にもなる炎だ
この世から
全身を離す決心に
受領印を押せ

ロッカーから机へ
人知れず
灯明をかかげ
口の奥は灼熱
男のネクタイは
乾いた舌である
酒を呑みながら
上機嫌で男と子供が
テレビで追った
草食動物の群
乾燥地帯の
おだやかな一日
満月に
追われるがわ
群れからの離脱が
こわい
死を
ふりきる疾走を
せよ
遅れている
台所の時計
進んでいる
子供部屋の時計
ネクタイをはずして
屹立する
うなじの
安息の場所
ではなかったのか
パラフィンの
水液のおもてから
薄い膜をやぶり
燃えあがる
イチジクのような炎
男の血は
女の記憶へと
せめて
実ったのだろうか
それが女の責任というものだ

子の損得を暗算するように
おだやかな誘惑
守秘義務の
ものものしさ
話すな
後から
やられる!
強迫観念に追われた
舌の重さが
唖者のまじめさで
果たされようと
男がみあげた
地球の切っ先
蝋燭のかがやきをもつ
ビル
草食動物がとおったあとだ
そこから
捨てた責任
知らぬ仏の
女も
会社も
子供も
遠いところで
ひろげられた
契約書の印のような
月の静けさだ