<シラビソ>
動かざること山のごとし
甲斐駒ヶ岳
白い岩石の山
北沢峠でテントを張る
大地からもらう少しの水
山頂にある馬頭観音
祠には爺がいた
高年の男女が手をあわせている
人の手のなかに ない
60リットルのザックに入らないもの
未来の足跡
病弱な子供の笑顔にも
離婚した娘のことにも
年金の利息のことにも
自分と妻の葬儀費用のことにも
シラビソの林から朝日が差す
夫の浮気で誰も信じられなくなった
病弱な子供の世話に疲れた
出世の望みもない
という僕の勝手な想像のなかを
一組の夫婦が
白い岩石の道を歩いていく
朝日のなかを
二人そろって